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『権力と抵抗』3刷に寄せて(佐藤嘉幸)

このたび、佐藤嘉幸著『権力と抵抗』が3刷となりました。2008年の刊行以来ロングセラーとなっています。今回の重版にあたり著者の言葉をお届けます。

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『権力と抵抗——フーコー・ドゥルーズ・デリダ・アルチュセール』3刷に寄せて

2008年に出版された『権力と抵抗——フーコー・ドゥルーズ・デリダ・アルチュセール』が、2017年11月に3刷を迎えることになった。決して容易な内容とは言えないこうした理論書が着実に版を重ねていることは、著者として大きな喜びである。

本書が出版されてから9年の間に、本書の主題をめぐってどのような変化があったかを振り返っておこう。まず、「権力と抵抗」をめぐる日本社会の動きについて述べておく。まず、2011年3月に福島第一原発事故という重大な「出来事」が起こり、原発事故の影響や原発再稼動をめぐって各地で様々な社会運動が自然発生的に生起した(そこには、住民による自主的な放射線管理、脱被曝、除染の運動も含まれる。この点については、田口卓臣との共著『脱原発の哲学』[2016年、人文書院]で詳述した)。また、2015年には、集団的自衛権を行使可能にする安保法制をめぐって各地で大規模な抗議運動が組織された。これらを「出来事」に触発された抵抗の自然発生的な生起であると考えるなら、他方で、権力による服従化の動きも依然として強固であり、それはとりわけ他の世代に比べて10代や20代の若者たちの政権支持率が高いことに顕著に表れている。このように、私たちの社会は2008年時点よりも顕在的な「権力と抵抗」のせめぎ合い、すなわち拮抗する権力関係の直中に置かれている。

次に、本書の主題をめぐる研究環境の変化について述べておこう。とりわけ顕著な変化は、フーコーのコレージュ・ド・フランス講義録全13巻の完結(2015年)、そしてデリダの講義録の刊行開始(2008年)である。ただし、これらの変化を踏まえても、「権力と抵抗」をめぐる本書の主題の基本的な枠組みに変化は生じておらず、その意味で、本書の立論はいささかも古びていない。むしろ、これからも新たな資料の刊行によって、その基本的な立論の正しさが確認され続けることになるだろう。なお、フーコーのコレージュ・ド・フランス講義刊行がフーコー研究にもたらした新たな視座をめぐって、私は1970年代後半の「統治性」研究が新自由主義批判にもたらしうるインパクトを踏まえて、『新自由主義と権力——フーコーから現在性の哲学へ』(2009年、人文書院)を執筆した(なお、「統治性」をめぐるより広範な議論については、箱田徹が『フーコーの闘争』[2013年、慶応義塾大学出版会]においてクリアな分析を展開している)。また、本書の執筆後に現れた政治情勢の様々な変化を踏まえて、私は廣瀬純との共著『三つの革命——ドゥルーズ=ガタリの政治哲学』(2017年、講談社メチエ)において、資本主義打倒の理論として、ドゥルーズ=ガタリ論の深化を図っている。

最後に、3刷における修正点を明記しておきたい。本文の内容には大きな修正はないが、注における参照指示を、この9年間の研究環境の変化に応じて更新した。大きな更新点は、ドゥルーズ(=ガタリ)の著作への参照指示を河出文庫版に統一したこと、フロイトの著作で文庫で入手可能なもの以外を『フロイト全集』(岩波書店)への参照指示に切り替えたことである。それに従って、とりわけドゥルーズ=ガタリ関係の訳語にはいくつかの変更があることを明記しておく。研究環境の変化に伴うこうした書誌情報の更新は、本書の記述を読者が理解する一助となるだろう。こうした更新に伴って、本書が今後も「現代思想」と政治に関心を持つ読者にとって道標となり続けることを、著者として願ってやまない。

2017年11月 佐藤嘉幸

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