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『アール・ブリュット』冒頭、訳者あとがき公開

ミシェル・テヴォー『アール・ブリュット』(杉村昌昭訳)の、ジャン・デュブュッフェ序文を含めた冒頭と、訳者あとがきの一部を公開します。

冒頭(PDF)→

訳者あとがき

 本書は、以下の書物の全訳である。Michel Thévoz, L'Art brut, Genève,Skira, 1975.邦訳のタイトルはそのものずばり「アール・ブリュット」としたが、この言葉になじみのない読者も想定して「野生芸術の真髄」というサブタイトルをつけたことをお断わりしておきたい

 最初に、アール・ブリュットに関心はあっても、とくに深く研究したわけでもない私がなぜこの本を訳すことになったのか、その経緯をかいつまんで述べておきたい。

 一九九六年から九七年にかけて在外研究でパリに滞在中に、フェリックス・ガタリ(一九九二年に死去した精神分析医・思想家・社会活動家で私が多くの著書を翻訳してきた人物)が働いていたラボルド精神病院の院長ジャン・ウリに招待されて、この精神病院を訪れる機会があった。歓談中にジャン・ウリがデスクのうしろの書棚から一冊の本をとりだして進呈してくれた。それが本訳書の原著である。それはちょうどラボルドの患者の表現活動について話をしているときで、そのときウリは分裂症患者が在院者の多数を占めるラボルド精神病院の患者の表現作品を友人のジャン・デュビュッフェが設立したローザンヌのアール・ブリュット・コレクションに寄贈したと語っていた。

 しかし、ジャン・ウリからもらったこの本の存在をじつに長い間私は忘れていたのだった。およそ二十年の時を経て私がこの本を思い出すきっかけになったのは、一昨年の五月、アール・ブリュットに深い造詣を有している「ギャルリー宮脇」の宮脇豊さんからの依頼で「創造と狂気」というテーマのもとに友人の鈴木創士さんと対談をすることになった機会である(この対談についてはチラシを参照)。対談に備えてなにか材料を用意しなくてはと思って書斎の書棚をながめていたところ、二重に本を詰め込んだ書棚の奥の方にこのミシェル・テヴォーの本がひっそりとたたずんでいるのが目に入り、ラボルドでのジャン・ウリとのやりとりがなつかしく蘇ってきた。ページをめくっていると、アール・ブリュットの独創的な作品の図版がちりばめられていて、個々の作品の内部に浸透するようなテヴォーの内在的解説に目を見張った。とくに作品の写真にまじって挿入されたデヴィッド・クーパーの狂気/創造性/正常性を関係づけた説明図表を活用しながらアール・ブリュットの位置づけをおこなうテヴォーの卓越した手法に感心したので、鈴木氏との対談にこの図表をコピーしてもっていき座談のネタに供したのだった。(以下は本書にて)



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